自社でプロダクト開発もやっている(近々ではWordPressプラグインのWattsというものを作りました)のと、最近プロダクトマネジメント本をよく見かけるので読んでみた。
リーンスタートアップやアジャイルの手法を“普通の会社”に持ち込んだときに起こりがちな罠(ビルドトラップ)について言及しているので、あるあるを感じながら退屈せず読める。
よかったところ
着眼点
以下の状況にビルドトラップという言葉をあてたのはうまいと思う。
本書の定義によると、ビルドトラップとは、以下のような状況を指します。
・組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況
・実際に生み出されたかちではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況
訳者まえがき
リーンとかアジャイルがバズワードとして持て囃される中、一番大事な「顧客への価値提供」がおざなりになっているというのがメインのテーマ。その流れで、「プロダクトとは価値を運ぶものです」と改めて定義しているのが良いですね。
自分もつねづね「スタートアップとか小さい組織ならいいんだろうけど、普通の組織がリーンとかアジャイルを取り入れるのは難しいよなぁ」と思ってました。たとえば心理的安全性がバズワードになっているのを見ても、「顧客へ素早く価値を提供するための心理的安全性なのに、いかに自分が心地よく開発できるかを最優先してないか???」って思うし……
だからこそプロダクトマネジメントをちゃんとしないといけないということなんでしょうね。
本書の最後の方に書かれている次の一文がよかった。
多くの企業はゆっくりと失敗します。プロダクトをリリースするものの、そのプロダクトが何か成し遂げたかどうかは計測しません。プロダクトを置きっぱなしにして、価値を生んでいるかどうかもわからないまま、無数の機能という海の中でゴミ拾いをしているだけです。
22章 安全と学習 P177
プロダクトマネージャーの定義
プロダクトマネージャーの定義や、アンチパターンについて踏み込んで書かれているのも良いです。プロダクトオーナーとプロダクトマネージャーの違いも説明されていて、興味深く読めた。
本書を読んで初めて「俺ってプロダクトマネージャーだったんだ」と思う人もいるのでは。日本企業でも出世=マネージャ+労務管理みたいな感じになりがちですが、これだと仕事の定義が曖昧すぎると思う。「定義に沿って分類して、定義に沿って評価する」ということをやって初めてサイクルが上手くいくので、ちゃんとしたいところです。
もちろんプロダクトマネージャー本人以外にとってもここを理解することは重要なことです。自分よりひとつ上の役職の仕事を巻き取っていくというのが仕事の基本なので、よいガイドラインになると思います。
よくなかったところ
邦題
一部amazonのレビューでボロクソに言われているけど、タイトルの付け方がevilだと思った。原著のタイトルは「Escaping the Build Trap」なので、ビルドトラップ(プロダクトマネジメントの限られた領域)の本です。オライリーから出ているのもあって、この邦題だと普通はもっと教科書的なものを期待するはず。
ガッカリした人はプロダクトマネジメントのすべてとか読んだ方がいいのかもしれない(自分は未読)。
構成
流れがスムーズではないので、気が散る要素が多い。
- 内容がどっちつかず(教科書的なのか体験談なのか)
- 基本的に著者のMelissa Perriさんの体験談がベース
- (教科書とは言わないまでも)網羅しようとする意気込みは感じるが、薄い
- 日本語訳のタイトルが事故っているのも、原著がヘタに網羅的に書かれていることが原因だと思う
- 章が多すぎ
- 全体で224ページしかない本なのに25章に分かれていて、2~3ページで終わる章もちらほら
- 話が飛びすぎ
- 一応は架空の会社(マーケットリー)を立て直した話が中心
- なんだけど、マーケットリーが全然出てこない
- 2/3ぐらいから急に出てきて急にハッピーエンドになる
- 教科書的な説明や他社(Netflix)の話に終始している章も多い
- 一応は架空の会社(マーケットリー)を立て直した話が中心
まとめ
たしかに良本ではあるけど、読んでいて「損をしている」「もったいないな」と感じるところも結構ある。著者の経験談とか、掘り下げたらもっと面白そうだけどな…。プロダクトマネジメントの本だけど、誰でも読めるしハマる人はハマると思う。
ビルドトラップは開発手法(ウォーターフォール/リーン/アジャイル)を問わず起こるとはいえ、すごく雑に言うと基本的にはリーンスタートアップ(とかアジャイル)の副読本みたいな感じなので、あらかじめリーンスタートアップぐらいは読んでいた方がいいでしょう。